今年の屑拾い2018年12月24日 20:50

 今年の世界はサウジアラビアの皇太子が政府に批判的なジャーナリストを殺害し、塩酸で溶かしたために遺体も出てこないというような世界である。プーチン大統領は満面の笑みでサウジ皇太子と握手していたが、殺人家の連帯であろう。トランプ大統領は武器輸出に差し障りがあるということでサウジ皇太子を批判しないでいる。
 これらの政治指導者は大体独裁者であり、今日の世界は独裁が顕著になった世界となっている。独裁者が利用するのはポピュリズム(人気取り)であり、これが繁茂していることは知られているとおりである。中国は最初から一党独裁であるが、習主席も流行に後れず任期を延長して独裁化を強めている。野党がないからここでは腐敗追放などの人気取りを自作自演でするようになる。
 日本国も例外ではない。アベ首相は選挙のたびに増税を延期して人気を取り、増税する場合は増税以上のばらまきをして人気を取る。財政赤字のつけは次の政権に回される。
 もう一つは外交による人気取りであるが、これは大体失敗している。アベ政権は拉致問題の解決を最優先課題としていたが、これは完全に失敗しているから、とっくの昔に退陣していてしかるべきであろう。だがアベ首相は思想劣弱の代わりに抜け目はなく、失政を政権延命に利用している。拉致問題はアベ政権で解決すると。ロシアとの平和条約もアベ政権で実現したいようである。クリミヤを併合したプーチンがいわゆる北方領土を返還することはないであろうことはさておき、戦後70年以上経過し平和条約の意味は薄れているのであるが。また憲法改正もアベ政権で実現したいとして政権に恋々としている。野党はしぶとさを見習うべきであろう。もっとも無教養な人物に国憲の基本は変えられないであろうが。
 外交の人気取りは対米従属という代償を支払っている。その犠牲になっているのが沖縄である。アメリカ軍基地を置いているイタリアやドイツでは基地の監督権はイタリアやドイツにあるが、日本ではアメリカに治外法権を認めているかのようである。プーチンが日本国の米軍基地に対する管理権を疑問視するのは当然であろう。
 この日本政府は沖縄に対していかなる手段を使っても基地を押し付けようとしている。アメリカには卑屈になり沖縄には傲慢になる日本政府の顔を醜い。しかしこのことに関しては、遠いところには想像力も連帯心も及ばない本土人の「鬼外福内」主義も醜悪である。沖縄問題はすぐれて本土人の鈍感の問題である。
 対米従属で最低なのは、岸田外相の時代の核拡不散条約への反対である。このアメリカへのおもねりは核の傘のもとにあると思っていることからきているようである。しかしアメリカが日本を守るために核兵器を使うということは100パーセントありえない。核の傘は幻想であり、核の傘などというものは存在しない。

 年の末になって日産会長の逮捕という妙な事件が生じている。有価証券報告書虚偽記載容疑ということであるが、会長が有価証券報告書を直接書くことはあり得ないことであり、社長以下の取締役会が承認しているのであるとすると、虚偽記載があるとしても、まず日産の責任であり、次に日産のガバナンスの問題であろう。
 ところが東京地検は実体犯でもない形式犯容疑で会長(他一名)だけを逮捕し、何週間も勾留するという常軌を逸した暴走をしている。検察は日本国の勾留期間は国際標準にあるとしているが、これは正しくない。日本国には「再逮捕」という抜け道があり、再逮捕するとリセットになって期間に意味がなくなる。取り調べに弁護士が同席できないなど、日本国の刑事司法は世界水準の周回遅れにある。
 この件が注目されるのは東京地検は他方で下村元文科相が20万円以下の政治献金は報告しなくてよいという政治資金規正法の裏道を使ってカケ学園からの献金を報告していないという告発を不起訴にしていることである。日産の有価証券報告書の虚偽記載は判断の分かれるところであるが、政治資金規正法への実質的違反は明瞭である。東京地検の捜査の公正さは疑わしい。
 ところでカケ学園は経済特区とされることによって土地を無償で与えられ、今治市や愛媛県から約90億円の助成を受け、ほとんどただ同然で獣医学部を建設している。これは首相への直接要請がなければ考えられないことである。アベ首相は知人に巨額の利益誘導をし、政治を私物化したのであろう。企業を私物化すると逮捕されるが、政治を私物化しても問われない。これが日本国の現実である。カケ獣医学部はアベ政治の置き土産となろう。
 検察の問題は続く。東京地検は前会長の勾留延長が認められなかった翌日、前会長を特別背任の容疑で三度目の逮捕をしている。特別背任は立件が困難とみられていたものであるが、急きょ別件で逮捕したようなものである。ここには何が何でも捕縛しておこうとする逮捕の恣意性があり、粗暴な野蛮さが見える。
 この逮捕が注目されるのは、検察はモリトモ事件では財務省の背任の告発に対して操作するふりをしただけで不起訴にしていることと好対照をなしているからである。前会長の損失付け替えの特別背任は疑問の余地があるが、財務省の背任は明瞭である。検察の捜査には恣意性が疑われる。
 日産事件はおそらく末梢的な理由で前会長を追い落とそうとした日産のプッチであろうが、日産や前会長は問題外のことであり、検察のことだけ触れておくことにする。マスメディアは逮捕されると一夜にして前会長を大悪人に仕立てたようであるが、長期間勾留されるような大犯罪をしたのかどうかは疑わしい。この事件は役人の罠に陥れられたカフカの『審判』を思い出させる。今日の日本国ではだれにでも起こりうることである。
 検察に問題があることは1年以上前から明らかであったが、マスメディアや刑事法学者を含め国民がぼんやりしている間に、重大な結果をもたらしたと言える。検察の動向からすれば日産事件は起こるべくして起きているのである。この事件は第二の大逆事件を思わせるところがあり、日本の刑事司法の問題を表面化させている。日本の刑事司法は人権無視、官憲本位という点で明治以来変わっていないと言えよう。海外から日本の刑事司法の前近代性を批判されて驚くのはお粗末というものである。
 日本の刑事司法の問題はマスメディアの問題でもある。一連の事件に関して日本のマスメディアは当局の発表をうのみにし、当否の判断なしにオウム返しをしているようである。この国のマスメディアは当局は正しいという固定観念があるようであり、これは大本営発表の時代と異ならない。チェックする機能がなければマスメディアは広報と同じになる。
 同時に近年の日本では法律問題が議論できなくなっているようである。モリトモ事件でもごみがあったかどうかというようなことばかりで、それが背任にどうつながるのかというような話は皆無であった。近年のこの国のマスメディアには法律の専門家がいないようであるが、これは専門家の問題ではなく、法的センスの問題である。
 今日の日本の国政の問題権の一つは法務省ー検察にあると言ってよいのであるが、まさしく法的思考ができなくなっているのである。検察が政治的に独立性を失って信頼できないようなものとなり、検察ファッショと呼べるような現象が現れている場合、問題をチェックするのは最終的には国会の監視である。ところが法律を作る国会が法的領域において議論ができなくなっているようである。モリトモ事件でも主張があるだけで法的な議論がないから、問題を詰めることができない。本来であれば法務大臣や検事総長を呼んで説明を求めるべきところで、野党の国会議員は関係者のヒヤリングなどという見当はずれをしている。これはFBI長官をよく議会で証言させているアメリカとは違う点である。
 どうして日本国ではこうなるのかということには様々な背景があり、基本的には法的思考の乏しさがあるであろうが、近年では思考のデジタル化によって思考が幼稚化していることが無視しえない。1+1程度の思考しか必要でないデジタル化によって法的思考が困難になるのは理解できないことではない。しかしこれは必ずしも世界的現象ではなく、精神疾患も予想される独裁君主トランプ一世に対してアメリカの司法的コントロールはまだ機能しているようである。法は民主制の砦であり、それがつぶれば民主制もない。

 このように今日の日本国はかなり独特の在り方をしているようであり、今年はそれが一段と顕著になったようである。女性の社会進出は世界100位以下になっている。ある医学部長は女性はコミュニケーション力があるから男性に加点したそうであるが、女性の社会的進出を阻んでいるのはこういう没論理の男性のようである。また紛争地域でょりょになったジャーナリストに対して国に迷惑をかけたということで謝罪を求める声があったようであるが、事実の探求より社会の平穏を優先するムラの発想であろう。ニーチェの言う「畜群」化や「末人」現象の増大であろう。こうした傾向の背後に予想されるのやはり天皇制的メンタリティというものであろう。 
 今年は天皇の退位が正式に決まったが、メンタリティにおいて特徴的なのは元号であろう。元号によって時代区分するというのでは国民の主権性も疑われる。現代の世界で日本列島にしか通用しない元号というものは邪魔以外の何物でもない。問題はしかし元号廃止などの声が全く出てこないという奇怪さである。これはある種の精神的麻痺であり、精神の蛸壺化が生じているということであろう。天皇を戴く国民は判断の主体ではなく、責任を持たない権力のもとで、めでたく過ごしている。
 もっとも年末には『日本国紀』という本がベストセラーになったようであるが、このナルチズムは蛸壺の動揺でもあろう。蒙昧の歳の市。

コメント

_ Best PEMF Mat ― 2020年02月05日 04:09

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